秀808の平凡日誌

第参拾話 進撃

「人間達の住む街を襲撃?」

 翌日の朝、名も無い崩れた塔の頂上へ、祖龍は同士達を集めこれからのことを話していた。

「ウム…奴等ニ逃ゲラレタ以上、ココニ我々ガイルトイウ事ハ既ニ知ッテイルダロウ。イズレ時ヲ置カズ攻メテクル。」

「成る程…やられる前にやる、ということですね?祖龍様」

 クロードが納得したように頷いた。彼自身も敵陣に攻め入る事に大いに賛成のようである。

「今回ハコノ私以外ノ全員デ、奴等ノ都市ヘ攻メ入ッテモラオウト思ッテイル」

「…お待ちください、祖龍様。我々が全員出払ってしまったら、祖龍様の護衛はどうするのです?せめて自分だけでも…」

 セルフォルスが心配そうに意見するが、紅龍の一声でそれは却下される。

「セルフォルス、いかに完全復活がなさられていないルーツ様でも、人間の数人程度はたやすく殺せるほどの力は持っている。貴様の心配することではない。」

「…失礼しました。紅龍様」

 その一声でセルフォルスは黙った。そんなセルフォルスを祖龍は少し慈しむような眼差しを向けた後、同士達に命令を下す。

「…サァ行クノダ!!我等ノ勇猛タル同士達ヨ!!今コソ人間達ヲ一人残ラズ地獄ヘ叩キ落スノダ!!!」





「う……」

 古都ブルンネンシュティングのブルン城医務室にて、ランディエフは目を覚ました。

 窓から外を見ると、見覚えのある風景に安心感をおぼえた。

 しばらく外を眺めていると、医務室のドアが開き、なにやらケースのようなものを持ったファントムが入ってきた。

「目を覚ましたのか、あれから丸一日ほど寝ていたぞ。」

 丸一日…そうか、自分は『名も無い崩れた塔2F』でスウォームと戦って…

 ランディエフは自分の右腕を見たが、もちろん右腕など存在しない。自らがその剣で斬ってしまったのだから。

 腕が片方無い剣士など役に立つはずも無い。ましてや自分は、あの黒龍達を討伐するメンバーの一員なのだ。自然とランディエフの表情が暗くなった。

 そんなランディエフの心情を悟ってか、ファントムが再度声をかけた。

「…腕が片方無いのが、どうしても嫌か?ランディエフ」

「…ああ」

 ランディエフは率直に答えた。この状態では、仲間を守ることはおろか、自分の身さえ守れない。

 その返答を聞いたファントムが、持っていたケースを開き、中にあったものを取り出してランディエフに聞く。

「…この腕を、使ってみる勇気はあるか?」

 ファントムが取り出した腕は、そこいらの怪我人が使うような腕ではない。

 丸太いかだ丘で見つかった、紅龍ゼグラムの切断された右腕だ。並みの者なら使おうとすらしないだろう。

 だがファントムは言葉を続ける。

「…幸いにもお前の腕の切り口とこの腕の切り口の細胞は死んではいない。血液による若干の拒否反応はあるだろうが、慣れればそれも気にならなくなるはずだ。」

「ファントム………」

 本来なら、敵であった者の腕などを代用したりはしないだろう、仮に使ったとしてどんな拒否症状が出て苦しむかわかったものではないのだ。

「…有り難く使わせてもらいたい、腕の切り口と切り口を繋ぎ合わせてくれ。」

「…わかった。こっちへ来るんだ」

 ファントムはランディエフを連れ、すぐ近くの手術室へ向かった。




「見えてきたようですね?人間達の街が」

 ネビスが黒龍の背中に乗りながら呟く、クロードは紅龍の背に乗り、セルフォルスは『ワイルドカーペット』と言われている絨毯にのって広大な青空を駆けていた。

 ネビスの視線の先には、かつて一度襲撃したことのある街『古都ブルンネンシュティング』が見えていた。

 西門の城壁の上で兵士達があわただしく動いているのが見える。

「もう気付かれたか、随分対応の早い…」

 クロードが自分の身の丈ほどある長刀を持ちながら呟いた。だが気付かれたことに対する焦りは誰一人感じていないようだった。

「…開始のセレモニーとやらを始めましょうか…クロード殿」

 そう言うと、紅龍が天に向かって咆哮したのち、空から数条の光が落ちてくる。炎系で最強クラスのスキル『メテオシャワー』であった。

 天から降り注いだ数個の『メテオシャワー』はそのまま街の中に落ちていき、直撃した柱や民家が爆発の炎をあげていった。

 古都の壊滅の時が、今再び訪れようとしていた。

 


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